私がこれまで点検した中で最も古いエレベーターは、昭和57年製のダムウェーター(荷物用小型エレベーター)。35年モノということですね。積載量が50~70㌔程度で、主に料理などを運ぶもの。小型でも人が乗るエレベーターと仕組みは一緒です。
扉が閉まるとドアロックがかかり、エレベーターが動きます。扉に異常が発生し、閉まらなくなった時、あるいはドアロック側の故障で扉が閉まっているのに「開いていますよ」と異常を示すサインが出ると、エレベーターはストップします。
数年前、名古屋でこのダムウェーターのドアに人が挟まれ、亡くなる事故がありました。この事故の原因が機械の故障によるものか、人為的なミスかは定かではありません。が、過去にはダムウェーター内部を清掃する際、誤ってドアロックを解除してしまったことが原因の事故も起こっています。しかし、点検員として保証ができないほどの古い部品を使っている場合、仮にこういったミスがなかったとしても、何が起きるかわかりません。扉が開いたまま、動いてしまうかもしれません。
最低限、人的事故が起きないよう、古い製品や部品を使っているお客様にはなおさら、取り扱いの際の注意事項を念押しします。例えば、くれぐれもダムウェーターの中に顔を突っ込まないこと。清掃もしないこと。もしどうしても内部を清掃したい場合は、ブレーカーを落として安全を確認してから作業してください等々。
ヨソで事故が起きると、「怖いねえ」という話にはなりますが、なかなかお客様の方から修理工事のお話は出ないもの。やはり極力、経費は節減したいということなのでしょう。お客様からしてみれば、エレベーターは「動けばいい」というのが正直なところでしょう。ただ、点検側の正直な声は、「こんな古い部品を使っていたら、死亡事故も起こりかねません」なんです。
従って事故が起こった時は、私たちからも「先日、こういった事故がありました。こちらも古くなっていますし、危険なので修理工事を考えていただけませんか?」と敢えて話題に出し、お客様に工事の検討をお願いしています。それでも理解していただけない場合は、いよいよ先程の“正直なセリフ”で、言葉は悪いですが、脅しにかかります。20~30年前の古いエレベーターでは、私たちがいくら点検しても事故は防げません。
月に一度の点検後、お客様には点検レポートをお渡ししています。その際、今回お話したようなケースでは、「このまま古い部品をお使いになると、事故、故障の原因になります。保証はできません。部品供給もないので、リニューアル工事をお願いします」と毎回、必ず書き込みを加えています。
ただ前回もお話したように、お客様にレポートを渡してサインをもらうだけのやり取りでは、こちらの本意がなかなか伝わりません。そこは点検レポートの危険な箇所に×印か※印を付け、実際現場で「ここが悪いんです」とお見せすると、お客様にも納得していただけます。
幸い、「全部はできないけど、高橋さんが最優先という部品からやっていきましょう」とおっしゃるお客様が多いので、こちらとしてもホッとしています。
高橋智(たかはし・さとし)氏略歴 1967年1月26日、神奈川県生まれ。向上高から1985年にドラフト4位で阪急(現オリックス)ブレーブスに投手として入団。その後外野手に転向し、92年5月27日の日本ハム戦では3打席連続本塁打で6打点、同6月4日の近鉄戦では当時のプロ野球タイ記録となる8試合連続長打を達成。同年は打率・297、29本塁打でベストナインに輝く。99年にヤクルトへ移籍し、01年に現役を引退。現在は愛知県名古屋市でエレベーター整備士として勤務している。プロ野球15年間の通算成績は打率・265、124本塁打、408打点。オールスターゲーム出場2回。 |