#14 部品交換は無駄な出費ではなく利益につながるもの

 前回お話した、野球部のある某会社。数年前、その系列会社の工場でエレベーターが故障したとの連絡がありました。さっそく駆けつけてみると、エレベーターの扉に何かを激しくぶつけたようで、扉が閉まらず、エレベーターが完全に動かなくなっています。

「どうですか? どのくらいかかりますか?」

「扉が外れているでしょう。ワイヤーもメチャクチャになっていると思いますよ。2030万円かかるんじゃないですかねえ」

「ええっ!?

「ぶつけちゃったんだから、仕方ないですよ」

 お客さんの側に責任がある時は、こんなふうに多少強気(?)になります。夜の11時頃に呼ばれ、まずは私一人で故障個所を見に行きましたが、会社から修理に必要な道具と部品を持って助っ人が来るまで、私は何もできません。ひとまず“休憩”です。すると、工場の人たちも20人ほど、エレベーターが使えないから……と雁首揃えて立って見ているのです。

「皆さん、何してるんですか?」

「いやあ、エレベーターが使えないから……」

「手で運べばいいんじゃないの!?

 私に言われて、やっとみんなが手で荷物を運び始めました。

「やればできるじゃないですか、○○○(←会社名)!」

 その後、技術者が到着し、ひとまずエレベーターを動かすための仮復旧作業が行われました。夜中の2時、3時までかかったと思います。それから日を改めて、修理工事が行われました。

 こうした故障の場合は分かりやすいのですが、エレベーターの保守に関する考え方は、同じ会社でも工場によって対応が違ってきます。例えばロープ交換についても、4カ月に1回、定期的に換える工場もあれば、20年以上換えない工場もあります。私は今、後者の方々の“改革”に励んでいます。自社の売り上げに貢献する云々ではなく、正直言って危ないからです。

毎月の点検ではロープを構成するワイヤー11本、細かいところまで見ることができません。しかし2324年も前のものは、もはやワイヤーロープの色ではなく、赤サビで真っ赤になっています。さすがに保全の担当者に「こんな状態ですよ」と言って見せると、「これはヤバイね」と言ってくれました。それで4トン、5トンの荷物を運んで、万が一ロープが切れたら、「メンテナンス会社が悪い」と言われてはたまりません。ロープに限らず、20年以上前の制御盤を使っている工場も、まだまだたくさんあります。点検員だって、いくら仕事でもそんなエレベーターには乗りたくありません。

このまま古い部品を使い続けて、もしエレベーターが止まったり、事故が起きたりしたら、どうなるでしょう。それが原因で工場のラインがストップした時の損失を考えれば、エレベーターを直しておくことは、むしろ会社の利益につながります。それでもなかなか修理してくれない工場や、車のディーラーさんには、こう言います。

20年前の部品をつけっぱなしの車を、お客様に売りますか?それと一緒ですよ」

 すると大概、黙って見積もりを出してくれ、ホッとします。

 

高橋智(たかはし・さとし)氏略歴
1967年1月26日、神奈川県生まれ。向上高から1985年にドラフト4位で阪急(現オリックス)ブレーブスに投手として入団。その後外野手に転向し、92年5月27日の日本ハム戦では3打席連続本塁打で6打点、同6月4日の近鉄戦では当時のプロ野球タイ記録となる8試合連続長打を達成。同年は打率・297、29本塁打でベストナインに輝く。99年にヤクルトへ移籍し、01年に現役を引退。現在は愛知県名古屋市でエレベーター整備士として勤務している。プロ野球15年間の通算成績は打率・265、124本塁打、408打点。オールスターゲーム出場2回。