#15 病院清掃で最も気を使うワックスがけ作業

 今回は、おかげさまで10年以上仕事をいただいている、病院清掃にまつわるエピソードをご紹介したいと思います。

 我が社が請け負っているのは、主に病棟の廊下、ナースステーション、食堂の床清掃。病室内外の日常清掃や手すり、ドア、窓などは、基本的に病院スタッフの仕事になっています。日常清掃では床をモップで水拭きしてくださっているのですが、それだけではどうしても隅に汚れが残ってしまいます。時間が経つと汚れがドンドン固まっていくので、そこは注意してしっかり取るようにしなければなりません。

 病棟内で特殊な汚れといえば、最も多いのがアルコール消毒液。垂れたところが点々と汚れるのはもちろん、時にはワックスが剥げる原因にもなってしまいます。「これは何とかならないものかなあ」と思っていたところ、ある時期からワックスがあまり剥げなくなってきました。不思議に思って聞くと、霧状に噴射されるスプレータイプの消毒液から、泡状の消毒液に替わったとのこと。そのため、床にこぼれ落ちる頻度が少なくなったのです。

 また病室内の床は、尿がこぼれてワックスが剥げてしまうこともしばしばあります。尿をこぼした時、すぐに拭き取り処理ができれば問題はありません。しかし、しばらく気づかずに放っておくと、尿のこぼれた個所のワックスが剥げたり、変色したりしてしまいます。それほど人間の尿は酸性が強いのです。

 他にも病院内では様々な薬品が使われていますので、まずはワックスの状態を見て「ここに何かこぼされましたか?」と聞くようにしています。その答えによって、対処の仕方を考えていくわけです。大抵は通常清掃で済みますが、一度ワックスを剥離し、塗り直さなければならない場合もあります。

 そのワックスがけは、病院清掃で最も気を使う作業です。というのも、清掃作業中も病院内には入院患者さんとその家族やお見舞いの方、医師、看護師、スタッフ……と必ず誰か人がいます。ワックスがけの際は作業を行う旨を周知の上、周囲をテープで囲み、近い病室の扉を閉めてから取り掛かりますが、それでもワックスを塗っている真っ最中に病室から出てきて、塗りたてのワックスの上に足を踏み入れてしまう患者さんがいらっしゃいます。

 特に乾く前のワックスは滑りやすく、危険なことこの上ありません。若くて健常な看護師さんならまだしも、患者さんやお見舞いの方、特に年配の方が転んでケガをしてしまったら、何のために病院へいらしたのか分からなくなってしまいます。

そこで、私が作業をしている時は、アルバイトさんに目配りをしてもらい、ワックスを踏みそうな方を見つけ次第、「すみません!!」と大声を出してもらうことにしました。それでも聞こえなかった場合や聞いてもらえなかった場合は、私が走っていって直接説明し、病室の中へ戻っていただいています。

それで結局、私の足跡が床についてしまい、ワックスは塗り直し。普通のスニーカーの頃は、そこで何度もひっくり返りましたが、以前紹介した「カープ安全スニーカー」に変えてからは、転ぶ心配もかなり減りました。

山内和宏(やまうち・かずひろ)氏略歴
 1957年9月1日、静岡県生まれ。駒澤大中退後、社会人野球のリッカーミシンを経て1981年にドラフト1位で南海(現ソフトバンク)ホークスに入団。83年には18勝で最多勝のタイトルに輝き、82年から85年まで4年連続二ケタ勝利を記録。90年のシーズン途中に交換トレードで中日へ移籍し、92年に現役を引退した。引退後は広島県福山市でビル管理会社を経営している。プロ野球12年間の通算成績は97勝111敗、防御率4・30。オールスターゲーム出場3回。