#11 デザイナーと維持・管理する人の思いがつながってこそ、トイレも一つの作品に


 前回までお話してきたように、最近のトイレはデザイン、機能とも非常に複雑化し、清掃作業員泣かせになっています。

 もちろんトイレをデザインした人は、何らかの思いを込めて、デザインしているでしょう。そのデザインに従って作られたトイレは、次にそれを維持・管理する人たちにバトンタッチされます。この時、デザインをした側の思いと維持・管理する側の思いがつながらなければ、せっかくデザインしたトイレが一つの作品にならないと私は思うのです。 そこで今回は、清掃する人間の立場から「トイレはこんなふうに作ってほしい」という例を挙げていきます。  私はトイレも今の人のニーズに合わせて、どんどん変化していくべきだと考えています。昔はみな、生きていくのに精いっぱいで、日々ご飯を食べていくことだけ考えていました。しかし今は社会全体の生活が昔に比べてよくなり、おしゃれをする余裕が生まれました。その分、汚れにも違いが出てきています。

 例えば化粧品、香水。これがすべてトイレの中に付くと、汚れ、ニオイが混ざって取れにくくなります。だから私は、一つのトイレの中にいろいろなものを作ってほしくない。確かにデザインを重視して休憩室などの設備があるトイレを作れば、みんなが興味を持って、使ってみたいと思うでしょう。 しかし、そのトイレをきれいに維持できなければ、せっかくのデザインも意味がなくなってしまう。そんな事態に陥らないためにも、これからはデザイナーと維持・管理者が交流の輪を広げていく必要があると思うのです。

 私の考えでは、化粧室はトイレとは別に、それだけで一部屋作った方がいいと思います。最近は男性も化粧をしますから、化粧室も男女別にあった方がいいですね。  次に、子ども用のトイレはパーテーションの色や便器の形など、ずいぶん工夫して作られています。ところが、そんな子ども用トイレも水洗のスイッチは大人用と同じ、シルバーの味気ない板。せめて色を変えたらいいのに…と思います。 多機能トイレは車椅子の方用とオストメイト利用の方用を別室に分けた方がいいのではないでしょうか。というのも、オストメイト利用の方は汚物を入れる袋を細かく消毒する処理をしたり、体を洗ったりする必要があります。これには結構時間がかかり、その間車椅子の方はトイレを使うことができません。 一方、逆に車椅子の方は体の不自由さのために便器を汚してしまうことがよくあります。オストメイト利用の方は袋を消毒した後、自分の体に付けるわけですから、なるべく清潔な環境で袋の付け替えができることが理想だと思います。オストメイト対応トイレを多機能トイレ内だけでなく、一般のトイレ内に一つ作ってもいいのではないでしょうか。 また、多機能トイレはその設備や付属品を使いやすい位置に配置することが必要だと思います。車椅子が移動するには、1・20・ほどの幅が必要です。一つ一つの道具設備は使いやすいものでも、利用者がトイレの中で動きにくかったら、結局は使いにくいということなのですから。

新津春子略歴 1970年、中国・瀋陽生まれ。日本空港テクノ株式会社社員。「環境マイスター」として羽田空港で活躍。2018年よりハウスクリーニング「思う心」を率いる。20年7月、YouTube『新津春子の優しいお掃除チャンネル』を開設。