#12 デザインがいいだけではダメ。利用する方や清掃もしやすいトイレを作ってほしい

 前回に続き、清掃業に従事する者として、トイレのデザインや設備に関する私の要望を挙げていきたいと思います。 空港、ショッピングモール、駅などのトイレには女性のストッキングの台紙、ペットボトル、生理用品が一緒に捨てられることが多い。建物にゴミ箱を置かなくなった分、トイレにゴミを捨てていくのです。そこで、トイレのゴミ箱の形をもっと考えて、ゴミがはみ出ないよう、回収しやすいゴミ箱にしてほしい。現状、特に個室内のゴミ箱は小さく、ストッキングの台紙が捨てられただけで、ほかのものが何も入らなくなってしまいます。奥行のあるゴミ箱は個室の広さからいって無理でも、高さは問題ないはずです。

 それから、わかっていても「これは何を捨てるゴミ箱か」を、ひと言文字を入れるのが優しさだと思います。何も書いていなければペットボトル、おむつなども一般ゴミ用のゴミ箱に捨ててしまいます。また、トイレのゴミ箱はどうしても臭いが出るため、内側を消臭できるものにしてほしいと思います。

 今のトイレに意外と少ないのが、荷物を置く台です。(洗面台の鏡とは別の)化粧用鏡の前に台があるのは一般的。先日見たトイレには鏡の前に台が2段付いており、下の段に荷物を、上の段に化粧品などを置くことができました。あれは利用者も使いやすく、素晴らしいと思います。

 ただ、ハンドドライヤーの横の荷物掛けは、むしろ付けないでほしい。ドライヤーで手を乾かす時に飛び散った水が、バッグにかかってしまいます。  おしゃれなデザインのトイレはいいのですが、お客様がトイレを使う頻度が高いほど、水拭き清掃しやすい材質を使ってほしいと思います。デコボコの壁、細かい目地……「どうやって清掃すればいいんだろう」と悩んでしまいます。極端な例では、水回りなのに水拭きできない壁を使ったトイレもあります。その後の維持、管理を想像すると、考えられない選択です。

 床材も、凝りすぎていて困るものがあります。例えばザラザラの石材と、木材が組み合わさった床。清掃作業が難しくなるのはもちろん、お客様の靴底に付いた石材の粉で木材が削られ、すぐに傷が付いてしまいます。

 モノは理由があるから設置する。お客様の使いやすさに加え、特にトイレでは目に見えない雑菌のことも考えてほしいと思います。ある授乳室の例。ちょうどいい隙間があるからといって、洗面台とハンドドライヤーの間にレンジを置かないでほしい。レンジは子どもの口に入るものを作るところなんですよ。

 トイレットペーパーを置く台は、高い場所に作ってほしい。便器から水があふれ出ることを、常に想定しておくべきです。また、小物を下に置くとホコリが溜まりやすい上、清掃作業がしづらいのです。清掃作業がしやすければ回転がよくなり、お客様が常に気持ちよく、スムーズにトイレを利用できます。 大勢の人が使う場所は、「デザインがいい」だけではいけません。デザインがよく、かつ清掃もしやすいような形を心がけていただきたいと思います。

新津春子略歴 1970年、中国・瀋陽生まれ。日本空港テクノ株式会社社員。「環境マイスター」として羽田空港で活躍。2018年よりハウスクリーニング「思う心」を率いる。20年7月、YouTube『新津春子の優しいお掃除チャンネル』を開設。