#2 建物を作った人にも使う人にもやさしく

 今回も、私のビルクリーニングに対する考えを書いていきます。 清掃で大切なのは「やさしさ」です。人が使う場所だから、私たちはそこをきれいにするわけです。従って、使う人のために気を配り、心を込めて清掃をしなければいけないと思うのです。
 
 前回も書きましたが、清掃業は、お客様に対する“サービス業”でもあります。私たちの業界全体のレベルが上がれば、それはお客様へのサービス向上につながります。
 私たちは自分たちが清掃する建物を使うお客様の存在を常に考えなければなりません。  
 私たちが清掃する建物にはそれぞれ、その建物を作った人がいます。誰かが何かを作るとき、そこには自分が作るものに対し、必ず何らかの気持ちがあるはずです。私は、それが非常に大切だと思うのです。その気持ちを知ることによって、建物の利用の仕方、管理の仕方、すべてが変わってきます。そして建物をきれいに清掃することで、私たちはその気持ちを守ります。それが、建物全体の美になります。建物が常に美しくあれば、建物の利用者=お客様も、より気持ちよく過ごせます。建物と人が一体化するんですね。
 ところが現状では、私たちはその建物のことを何も知らないまま、清掃作業だけを進めています。これでは莫大なお金を使って作った建物の意味が変わってきてしまうと思うのです。ここは清掃業界全体で、考えていくべきことだと思います。

 私の勤務する日本空港テクノの親会社・日本空港ビルデングは、羽田空港旅客ターミナルビルの運営会社です。この親会社では、CS(顧客満足)理念を「訪れる人に安らぎを、去り行く人にしあわせを」という言葉で表しています。私たち子会社はそれぞれ業種が違いますが、定期的に親会社の顧客サービスの研修を受けています。そのとき、このCS理念に基づいて「こういうふうにお客様を迎えてほしい」「みんなでこうやって協力し合ってほしい」といった指示を受けます。 この理念を実現するために、それぞれどんな工夫ができるのか、各社で考えていきます。そのおかげで、各社が一体になっているのだと思います。  

 「訪れる人に安らぎを、去り行く人にしあわせを」──この言葉には本当に深い思いが詰まっていると思います。私はこの言葉に基づき、「清掃」という自分の仕事の中で、お客様にどんなおもてなしができるかを考えています。お客様をお待たせしないため、作業手順などを工夫するのも、その一つ。お客様が困っていたら、いち早く気づき、声を掛けて差し上げることも、私たちにできる心配りの一つだと思っています。
 私はここ、羽田空港を自分の家だと思っています。自分の家に来てくださる方にはおもてなしをしたいし、リラックスして気持ちよく過ごしていただきたいのです。
 そのために大切なのは、空港の隅々まで清潔さを保つこと。人へのやさしさ、物へのやさしさをもって、あらゆる場所のホコリや汚れに気づき、常にきれいな状態でお客様をお迎えできるよう、これからも清掃業務に努めていきたいと思います。

新津春子略歴 1970年、中国・瀋陽生まれ。日本空港テクノ株式会社社員。「環境マイスター」として羽田空港で活躍。2018年よりハウスクリーニング「思う心」を率いる。20年7月、YouTube『新津春子の優しいお掃除チャンネル』を開設。